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宇都宮地方裁判所 昭和28年(ヨ)13号 決定 1953年3月18日

申請人 株式会社大興電機製作所

被申請人 堀内耕一 外三十五名

主文

別紙目録記載の建物その他

栃木県塩谷郡矢板町大字矢板一五二六番地所在株式会社大興電機製作所矢板工場(組合事務所検証見取図D.11の建物を除く)に対する被申請人等の占有を解き申請人の委任する執行吏の保管に付する。

執行吏は申請人の求めにより申請人に之を使用させねばならない。更に執行吏は被申請人等の申出により申請人が同意した場合には申請人の措定に従つて右工場内に於て労務に従事することを許さねばならない前項の場合の外被申請人等が右工場(前記組合事務所を除く)に立入ることを禁止する。

(無保証)

理由

第一、申請の趣旨

主文第三項同旨並に執行吏はその立入を禁止するに必要なる方法を講ずることができる旨の仮処分決定を求む。

第二、申請人の主張

申請人会社は肩書地に本社を有し栃木県塩谷郡矢板町一五二六番地に矢板工場があつて有線通信機の製作を営むものであるが従業員二百六十一名中二百五十一名(内十名は非組合員)は株式会社大興電機製作所矢板工場労働組合(以下組合と略称する)を組織して居るもので被申請人等はその組合であるところ申請人会社(以下会社と略称する)は経営上の危機に直面し経営合理化の必要から人員を整理することになり昭和二十八年一月十四日組合と団体交渉をすることを申出て同月十六日矢板工場事務所に於て協議を開始しその際会社側は従業員中四十名を整理する希望退職者は一月二十日午後四時迄に申出られたい旨を申出で同月十八日午後一時第二回団体交渉を開いたところ組合側より(一)企業合理化を人員整理によつて解決する会社の考へ方には絶対反対である(二)個人の自由意思を最大限に尊重して希望退職は認める但退職手当金は別項の通りとする(三)通告による解雇は絶対反対等の回答あり会社側は翌十九日回答することとし同日第三回の団体交渉を開いたが会社側の申出と距離があり円滑交渉の見込がないから組合の申出を拒絶し団体交渉を打切つた会社と組合との間には労働協約はないが就業規則がありその第四十九条第一項の二号には従業員が左の各号の一に該当するときは三十日前に予告するか又は三十日分の平均賃金を支給して解雇する「二、已むを得ない業務上の都合によるとき但し従業員の過半数の代表者と協議して行う」とあるので会社は組合の代表者と協議したが団体交渉は不調に終つたので会社は就業規則第四十九条によつて昭和廿八年一月二十一日附の内容証明郵便で各被申請人に対し会社の都合で解雇する旨通知し右通知書は翌二十二日各被申請人に到着したので同人等は会社の従業員たる資格を失つたものである然るに被申請人等は同月二十三日午前九時頃他の従業員と共に工場に侵入し講堂を占拠し翌二十四日には就労を妨害し他の従業員の就業を妨げるので会社は従業員に対し就業命令を出したが一人の就業するものもなくストライキ同様の状況を呈し来たが同年二月二十二日ストライキに入り右状態が継続しているのでその立入禁止を求むるため本件申立に及んだというのである。

第三、被申請人の主張

申請人の主張中会社の営業工場の所在組合の組織されあること団体交渉のあつたこと(但し就業規則によつたものでない)会社側の説明のあつたこと第二回の団体交渉に際し組合が申出を為し第三回の団体交渉に於て会社が組合の申出を拒絶したこと就業規則に申請人主張のような記載のあること解雇通知のあつたことは認めるがその他の事実は否認する第三回の団体交渉は継続中に会社側に於て一方的に拒否して退場したもので申請人のなした解雇は労働組合法第七条に違反し解雇権の濫用であり無効であるから被申請人等は従業員の地位を保有しているよつて団体交渉を持つため守衛の承認を得て工場内に入つたものであるがその後昭和二十八年二月二十二日ストライキに入り合法的に争議を継続しているのだから本件申請は理由がない。

第四、当裁判所の判断

申請人主張のように会社が営業し工場を有し労働組合が組織されあること団体交渉のあつたこと会社の説明組合よりの申出会社側の拒絶のあつたこと就業規則に申請人主張のような記載のあること解雇通知のあつたことは当事者間に争なくその余の申請人主張事実特に組合側が別紙目録記載の建物を含む工場を占拠していることは疏明される被申請人は申請人の解雇は労働組合法第七条に違反するから解雇権の濫用で無効であると主張するのであるが仮に右解雇が無効としても使用者は賃金支払の義務を有するに止り労働協約等に特別の定めのない限り労働者の労務提供を受領する義務はなく工場の所有権又は占有権或は経営権に基き労働者の立入禁止を求めることができるものと解すべきであり申請人の本件申請は右事由をも含むものと解するを相当とするから被申請人の前記主張は申請人の申請を排斥するの理由とならない

よつて本件工場を執行吏の保管に付し申請人をして使用させ被申請人の立入を禁止する仮処分をなすを相当と思料し主文のように決定する。

(裁判官 真田禎一)

(別紙目録省略)

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